最高裁判所第三小法廷 昭和25年(れ)1947号 判決 1951年4月17日
主文
本件各上告を棄却する。
理由
被告人稲葉敏の弁護人岩淵彰郎の上告趣意第一点について。
所論の統制額超過買入行為と統制額超過販売行為とは、必ずしも常に随伴する行為と認めなければならないものではないから、原審が被告人稲葉敏の原判示第一の畳表の買入及び販売行為を併合罪の関係にあるものと認めて処断したことには違法はなく論旨は理由がない。
同第二点について。
原判決がその証拠として挙示する第一審第一回公判調書中の被告人稲葉敏の供述として、昭和二三年七月一〇日附公判請求書に公訴事実の二として記載せられた事実は相違ない旨の記載及び同公判請求書中判示第二同旨(ただし、判示小豆を売却した相手方が小島正男であるとの点は判示と異る)の公訴事実の記載によれば、被告人稲葉敏は栃木県農業会の事業部長として判示小豆を業務上保管していた趣旨を自認しているのであるから、原審が原判示のように業務横領の事実を認定したことには所論の違法はない。
被告人中杉修二の弁護人小池金市の上告趣意第一点について。
被告人中杉修二に対する判決理由は、原判示第四事実のみであって、原判示第二事実は同被告人に対する判決理由ではないから、第二事実を引用して理由に齟齬があるとの主張はこの点において理由がないばかりでなく、原判決は原判示第二事実において、被告人稲葉敏は栃木県保存食品工業株式会社の専務取締役である大柿武男と共謀の上判示の小豆四斗入二四八俵を栃木県農業会鹿沼支所倉庫から前記食品工業株式会社に搬出して隠匿した上、これを被告人中杉修二等に売却して横領したという被告人稲葉敏に対する業務上横領の事実を判示したものであって、所論の小豆の売主が稲葉敏であるとの事実までを認定したものではない。従って、原判決が判示第四事実において被告人中杉修二が所論の小豆を栃木県保存食品工業株式会社から買受けた事実を認定してもその間齟齬あるものではない。
同第二点及び第三点について。
原判決に挙示する証拠によれば、被告人中杉修二及び鈴木長城が判示砂漠公司の業務に関して判示小豆を買受けた事実を認定し得られるのである。それゆえ、本件小豆の取引における買受人が鄭薇郎であって被告人中杉等は幇助者に過ぎないとの主張は事実誤認の主張に帰し採用できない。されば、原判決には所論のような違法はなく論旨は理由がない。
同第四点について。
所論は、被告人中杉修二が鄭薇郎の幇助者として行為したことを前提とするものであるが、その然らざることは前説明のとおりであるから論旨は理由がない。
よって、旧刑訴四四六条に従い、裁判官全員の一致した意見により主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)